地方女子の働きがいを考える
ローカルの経営資源の少なさを逆手にとる
CATEGORY:Business, for Women
2018.9.10更新

経営資源が少ないことは、逆手にとれる

前々職でお会いしてきた各地で活躍する人々は、人・モノ・金・情報などの経営資源が少ないことを、憂うのではなく逆手にとって、生き生きと活動していました。

武器が少ないのなら、ひとつひとつをもっと磨きあげて使えばいい。少ないことを言い訳にするのではなく、少ないからこそできる工夫をしたい!と感じました。

福岡県で活動している元同僚が教えてくれた話があります。

佐賀県のある中学校では、たった5色(青・赤・黄・白・黒)の絵の具を使って絵を描く授業があるそうで、銀色の蛇口も、足元の黄土色の土も、そこに生えている緑色の葉っぱも、そういう色名の絵の具を使わず、5色を組み合わせて色から作るのだそうです。

緑色の葉っぱと言っても、よく観察すると実はたくさんの色から構成されていることに気づきます。対象が持つ複雑な表情を読み取る力や表現力を養うことができる、素晴らしい授業だなと思いました。

これは、地方の暮らしや仕事にも通じることです。

ないものを数えればキリがないけれど、「あるものを生かしきる」(生かさないと暮らせない)というのは、地方のよさのひとつではないかと感じています。

 

「人」が少ないと、成果が目に見えやすい

例えば、人。

確かに人数も少ないし、Uターンしたての頃は友人・知人も少ないけれど、いざ知り合うと、再会までのスパンが短いのは、地形的にもコンパクトな富山ならではかもしれません。

趣味や興味の範囲が似ている人とは何かのイベント等で一緒になる機会も多いし、お仕事で出会った人と夕飯の買い物でばったり会ったりすることも少なくありません。誰か一人を介せば、親戚か友人につながってしまいます。

それは、“絵の具”の色の少なさゆえに、結構な頻度で使われたり駆り出されたりするということ。午前中に会議で会った人と、また別のミーティングで一緒になるということはよくあります。結びつきが複層的で濃くなりやすいということでもあります。

だから、一度ちゃんとつながると、よほどのことがない限り、縁が切れることはありません。小さなお仕事でもしっかりと成果が出れば、それを認めてくださる方が現れ、さらに広めてくださるのです。

もちろん、その逆で、ダメダメなお仕事でご迷惑をおかけすると悪い噂も一気に広がるという緊張感もありますが…。

 

「モノ」が少ないと、ぐっと距離が縮まる

次にモノ。

例えば、有名な展覧会や一流のコンサートや演劇、文化的な刺激が得られる場所や機会は、もちろん数的に言えば都会より少ないのは事実です。でも、一つひとつの作品やアーティストとの距離は、確実に都会より縮まって感じます。

同じ地元だというだけで、滞在中の映画監督さんファミリーと飲み仲間になれたり、わざわざ富山に来られた有名人が観光ついでに事務所に寄ってくださったり…。スポットが限られているからこそ、候補に入れてもらいやすくなるというか、地元というベースになにかひとつ共通のテーマが見つかると、ぐぐっと親近感が湧き、実際の交流も深くなります。

また、服や本は東京時代から、通勤や移動中にオンラインショップで買ってきたので、お買い物自体にそんなに時間がかかりません。通りかかった雰囲気のいいお店にふらりと入ることはありますが、それは買い物という目的ではなく、新たな体験や出会いを得るため。そういう意味では、興味深い店構えの専門店やセレクトショップは富山にたくさんあります。特に、古くから暮らしに根ざしている飲食店や加工品店(昆布店など)、呉服店などを訪れるのは、買い物以上に地域の文化を知ることのできる、とても魅力的な時間だと思います。

ある程度自分の好みができあがってくると、多くの選択肢よりも、出会い方やタイミングの方が大事になってくると感じます。むしろ、「雑音が少ない」ということは、一つひとつのモノとしっかり対峙し、味わえるチャンスだと言えます。この見方をお仕事でも発揮すれば、今、ここにあるものすべてが、必要と理由があって存在するという「ありがたさ」を活かすことにつながります。

「お金」も規模も、小さく始められる

ここまで来たので、金と情報についても書きたいと思います。

お金については、家賃や食費など、生活環境にかかる月額の諸費用がかなり減りました。Uターン後数年は、新築の戸建て賃貸物件に住んでいましたが、東京時代と比べると面積は5倍以上、賃貸料は半額以下。近所のスーパーに並んでいるものも品数多く、特に鮮魚が豊富で安いのに驚きました。

事務所は、最初3年間は、富山市が設置した「とやまインキュベータオフィス」の一室を、主人の会社とシェアして使っていました。家賃は折半すると月額約2万円。中心市街地でアーケード通りに面していて、コンシェルジュさんもいてくれてこの価格はかなりリーズナブル。ITやデザイン関連で起業したばかりの方々が入居していました。多くが1〜2名の会社でした。

振り返ってみると、仕事上のコラボはほとんどありませんでしたが、共用スペースでの他愛のない会話などを通じて、“富山で仕事をつくる現実的な温度感”に体を慣らす時期だったのだなぁと思います。

富山県内には現在、このような公共的なインキュベーション施設が13カ所あります。入居の際には審査や面接などもあって少し面倒ではありますが、様々な金銭面の支援制度やフォローアップ体制もあるので、土地勘がない地方で起業する場合にはおすすめです。

いい鉱脈を発見しただけで満足しないように

そして、情報についてですが、初動段階では、自分の足で取りに行かないとまず、得ることはできません。でも、先ほどの「人」の話のように、ひとたび、いい鉱脈を知り、ポイントを押さえてしまえば、あとは流れに心地よく身を任せていれば、なんとか渡っていけてしまいます。

しかし、気をつけないと、バランス感覚を失ってしまう恐れもあります。地方は限られた人が情報源となっていることが多いため、気づいたら自家中毒のような世界に身を置いていたりします。また、「見よう見まねで地域外から持ち込んだものを、必要以上にありがたがる」習性のようなものがあり、特に、都会や海外の事例などに影響されやすいため、自分たちの感覚にも身の丈にも合っていないようなものが、救世主のように幅をきかせていたりもします。

地方にいると、人間どうしの関わりが複層的で、「人の存在そのもの」を認められやすいため、放っておくと「何かをなさねば!」というハングリー精神が、どんどん薄れていってしまうのも事実です。常にアンテナを高くしていることと、違和感に蓋をしないこと、そして、探求の手を緩めないことを、自分に課し続ける必要があると考えています。

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